チャレンジャーの軌跡 「事業立上げのスペシャリストが選んだ道」

いずれにしても部隊のTOPが状況を見ながら瞬時に確からしい意思決定(正しいかどうかも分からない場合が多い)を行う。部隊があたかも家族のように有機的につながり、またそれぞれが最前線で最善の判断を行い実行する。もちろんTOP自身も最前線で共に戦う。判断の一瞬の遅れや間違った選択が命取りになるため、全員が事業のミッションや目的、現在の状況を深く・正確に理解し、すべきことを自らの仕事領域を限定せず遂行していくことが必要になる。といった感じだろうか。
さて、彼はその言葉を聞いた瞬間「これは俺の一生の仕事になる!」と感じた。純粋に、食品という人の生活において不可欠かつ大切なものを、嘘をつかず真面目に作って多くの方々に提供したい。今、本業でやっていることも結局は同じ事なのではないか。俺は現在売られている食品を本当に安心して食べているのか、自分の子供に食べさせたいと思うか。もし実現できれば、それこそ大きな事業につながるのではないか…。
そう考えていくと発想は膨らむばかりである。こんなことがしてみたい、こうやれば上手くいくのでは。もちろん社内でオーソライズされた案件ではなく、また自身も通販事業の重責を担っており、今の仕事そっちのけでそんなことをしている暇は無い。でもやりたい…。彼は休日を利用して、独り市場調査をやり始める。
市場調査は半年に及んだ。それこそ食品にまつわる色々な場所に足を運び、資料を取り寄せ、事業計画書を書いては修正し、そしてまた白紙に戻して新しいプランを考える。
この頃になると、オーナーにもこの事業をやりたいと話していたらしい。限られた時間の中、リサーチを続ける彼。それを黙認するオーナー。 実際市場調査を進める中で、この業界の複雑な構造と、問題を抱えつつもそれぞれが果たしている役割と意味、何より大手小売の圧倒的な力…。徐々に理解してくるのと比例して、彼はこの事業をするのが恐くなった。やりたいこととできることのギャップ、事業のリスク、実現する為に必要な膨大な時間と労力、本当にできるのか?ある時、そんな正直な気持ちをオーナーに話した。「そうか、恐いか…。しかし事業をやるということはそういうことだ。」

それでもかなりの人が手を上げたらしい。 食品業界出身者の採用にも動いた。面接時に彼が必ず言う言葉がある。
「一部上場企業に入ると思わないで下さい。この事業が潰れるとそのまま解散になると思います。それでもやりたいかどうかは冷静に判断して下さい。それでは事業の説明を始めますね…、」 事業部が発足して9ヶ月が過ぎた現在、メンバーは10名を越えた。それこそ休み無く全国を飛び回る日々が続いている。やると決めたことはすなわち自分がす ること。緩やかな役割分担の中、強い結束力と当事者意識。自己責任の超越。新規事業の立上げというと、部内が活力に満ち、ワイワイガヤガヤ、忙しい中にも 何か楽しそうな雰囲気があるのが常だが、この事業部はちょっと違う。 確かに活力が満ちているのだが、「ある一線を越えた者が持つ強さが漂っている」「すべき仕事にわき目も振らず邁進する緊張感がある」と言えば少しは伝わるだろうか。 彼の事業に共感して、それに賭けようと自ら決めたメンバー。無意識のうちにそれを背負っている彼。そして本気になった時に発揮される人間の力。この事業の行く末は神のみぞ知るだが、その環境で時を過ごす事自体がどれだけ大きな財産になるかは想像に難くない。 彼を良く知る人間が、今の彼をこう表現した。
「エリートビジネスマンから経営者に変わりつつある」と。
事業の成功を祈りたい。
インタビュー日時:2008年7月1日